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農薬の深イイ話

2021.02.01

「ヒアリ」と「沈黙の春」

原産地は南米中部
ヒアリは毒を持ち「世界の侵略的外来種ワースト100」に指定されています。
元々は南米中部に生息していたアリですが、船や飛行機に積まれたコンテナや貨物にまぎれ込んで、1940年代頃からアメリカ合衆国やカリブ諸島に次々と侵入し、2000年代には原産地から遠く離れたオーストラリア、ニュージーランド、中国、台湾でも発見されるようになりました。
日本へも2017年6月、尼崎市のコンテナに500匹の働きアリと翅アリが初めて確認され、その後も各地で発見の報告が相次いでおり、2020年7月にも東京の大井埠頭で見られています。しかし、いずれも水際で処理されており定着はしていません。

●「殺人アリ」?
ヒアリが日本に初上陸したときは、「殺人アリ」という煽り文句でセンセーショナルに報じられました。
ヒアリの毒は2種類ありますが、重症化するのはタンパク毒によるアレルギー症状(アナフィラキシーショック)のほうです。これもアメリカの例では致死率は0.001%と低くとても「殺人アリ」と呼べるほどではありません。
もう一方の毒は、アルカロイド毒で一般には植物が作り出すことで知られています。カフェイン(コーヒーやお茶)、コカイン(コカの葉)、アコニチン(トリカブト)、フグに含まれている毒と同じ物です。ヒアリのアルカロイド毒「ソレノプシン」はそんなに強い毒ではなく、刺されると強い痛みはありますが、30分ほどで白い膿の塊(皮膚症状)ができ、2週間程度かゆみを我慢すれば完治します。しかし問題なのは被害にあう人の数が非常に多いということです。

●侵入阻止に失敗したアメリカ
アメリカは1930~40年代にアルゼンチンからアラバマ州のモービル港に侵入し北米に拡大していきました。
1950年代後半から60年代にかけセスナ機を使って空中から有機塩素系殺虫剤を散布するなど、当時のお金で300億円を投じ、大規模な防除をおこないました。しかしこの作戦は全く効果を上げることなく失敗し、現在は駆除を諦めています。
そして残ったのが皮肉にも名著「沈黙の春」で指摘された、有機塩素系殺虫剤による環境汚染問題でした。

●「沈黙の春」とヒアリ
解説するまでもなく、「沈黙の春」はレイチェル・カーソンが1962年に発表した、化学薬品が人間の生活にはかりしれない便宜をもたらしたが、反面自然均衡の破壊因子として作用することを指摘した警告の書です。
そのなかでヒアリの被害とその駆除に関して、かなりのページをさいて書かれています。
アメリカでヒアリの駆除計画が始まったのは1958年のことで、南部の9つの州で発生地に有機塩素系殺虫剤を航空機で散布しましたが、実際は現場の不手際もあり、昆虫の大量防除としては効果も思わしくなく、多くの非難を受けました。
「ヒアリは合衆国南部の農業に深刻な脅威をあたえる、作物をいため、地表に巣をつくる鳥の雛をおそうから自然も破壊する。人間でも刺されれば、害になる―こんな言葉をならびたて、議会の承認を得たが、誤りであることがあとでわかった。」と書かれています。
莫大な費用がかかったばかりでなく、多くの動物の生命を奪い、農務省の信用をおとすという高価な犠牲をはらったこととなりました。
そして散布された殺虫剤の影響についてこう書かれています。
「スプレーが行われた場所で死んだ鳥を解剖してみると、ヒアリ防除の毒を吸収したり、嚥下していた。(略)アラバマ州のある耕地では、1959年のスプレーのときに、鳥の約半分が死んだ。地面の上や、背の低い木にすむ鳥は、一羽残らず死んだ。スプレー後1年たったが、鳥は春を歌わず、いつも巣をかけるあたりにも巣の姿は見えず、自然は黙りこくっていた。テキサス州では、ムクドリモドキ、ムナグロノジコ、マキバドリが巣のなかで冷たくなり、からの巣もたくさんあった。」
この文章の後、8ページに渡って鳥類、家畜、家禽にたいする殺虫剤の悪影響について、延々と書かれています。
この「沈黙の春」は大ベストセラーになり、世界を動かし1970年代には全世界でBHC,DDTといった安価な殺虫剤が使えなくなってしまいました。そして使用制限によりマラリヤ病が増加するなどの弊害ももたらしました。
アメリカではヒアリについて駆除が出来なくなり、農務省が心配したとおりアメリカ南部に広がり、地球規模の「侵略的外来生物」となってしまいました。
レイチェル・カーソン自身は、自分で書いた本によって、世界的な規模でDDTが使用制限されるとは思っていなかったかもしれません。警鐘を鳴らしたつもりが予想された以上に、過剰に振りすぎたとも言えるでしょう
結果として「沈黙の春」は環境の問題の難しさを、幾重にも知らしめてくれる1冊となりました。

「沈黙の春」とヒアリにつきましては、村上貴弘氏の著書「アリ語で寝言を言いました」(扶桑社新書)を参考にしました。

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